石川達三『経験的小説論』

昭和の時代に一斉を風靡した石川達三エッセイ、エッセイというか小説論。
数多くの新聞連載小説をやった経験から、小説はこうあるべきなのではないか、また自分の小説はこうなっていくのではないかという事を自分がこれまでに出版した著作と併せて述べている。
古今東西の名著と自分の著作を比べ、あの作品はこんな欠点があるが、しかし私の著作の○×はこうなのだという自画自賛が見え隠れする。
小説は主題、テーマが無くては駄目だという。テーマは何かテーマは何かという凝り固まった考えが、自由奔放な作品に対する拒否感を生んでしまったのであれば、石川氏の考えるテーマ主義は日本の文学の悪癖の一つとなったのではないか。
この本に、「まるで謎解きをしているような小説」を書いている一人として挙げられている安部公房は、小説は意味以前の物を読者に提示するものだと、テーマ主義に真っ向から反している。しかし安部公房の小説はテーマは無くても面白い。そして安部公房の作品は残り石川達三の作品は消えてしまった。